Magnet 6 「 Catherine 」







自分自身に正直であることはなんと困難なことだろう。

他人に正直である方がはるかにやさしい。


――― エドワード・F・ベンソン ―――






6. 「Catherine」 ― キャサリン ― 



「今度の人、辞めて貰えない?」
「Why not ?」
「あなたの幼馴染だから余り悪く言いたくはないんだけど……その……彼の料理が口に合わないの」

 " 私を見る彼の眼つきが嫌なの " ――喉元まで出掛かった本当の理由を飲み込み、彼女は隣に横たわる夫の顔色を伺うように視線を上げた。

「美味しいってあれだけ褒めてたじゃないか。何で今更?」
「不味くはないわ。でも……」
「じゃああいつと直接交渉するんだな。好みの味にしてくれって」
「ねえ、フィル――」
「――疲れてるんだ、キャス。いい加減にしてくれないか」

 そう言って背中を向ける夫に心の中で溜息を吐き、彼女はダウンケットの間から覗くその広い背中を暫くの間眺めていた。


 ほどよい筋肉が付いた、滑らかな肌。この背中に縋るようにしがみ付き、毎晩のように身体を揺さぶられたあの日々は幻だったのだろうか。
 今では忘れた頃に事務的に私を抱く夫。出掛ける時や息子の前で彼は、愛してるよ、とちゃんとキスをくれる。そしてその度に気まずそうに視線を外す。
 たった今、後ろからこの背に抱き付いて、愛してる、と口付けたならこの人はどうするだろう。振り返り、私を抱いてくれるのだろうか。
 それとも、やはり……私を拒絶するのだろうか。

 ――試してみようか――

 彼女は恐る恐る夫の背中に指先を伸ばし、触れる直前にそれをぎゅっと丸めて引っ込めた。そこに見覚えの無い小さな新しい傷を見つけたからでもなく、夫から寝息が聞こえ始めたからでもない。
 たとえ義務的でも、彼の方から私を求めてくれることに変わりは無い。
 でも自分から求めてそれを拒絶されてしまうのは、余りにも――
 やがて諦めたように夫の背中から視線を外して寝返りを打ち、彼女は漸く瞳を閉じた。


 夫が連れてくるのは毎回、若く性的な魅力に溢れたルックスの良い料理人ばかり。前の料理人のスティーブもそうだった。その前の二コラという男も。つい最近夫が連れてきたショーンという男も同じ類の男だ。今までと違っていたのは夫の友人だということ、私とも面識があったこと、ただそれだけ。
 彼は何か言いたそうな、含みのある眼でいつも私を見ている。まるで私を見定めするかのようなその視線は、友人の妻に向ける類のそれではない。
 男に欲望を含んだ視線を向けられることは時として、女にとって喜ばしいものだ。自尊心をくすぐられるし、女としての魅力を認められたような気になる。 だからそういう視線ならば甘受するのに。
 でも彼が彼女に向ける視線は性質(たち)の悪いものだった。一体何を考えているのかが読めないのだ。
 そればかりか彼は時折、憐れな者を見るような、同情を含んだような眼を彼女に向けることがある。
 彼のそんな瞳に出会うと心底不安な気持ちになってしまう。決して好意的とは思えないそれらの視線が居心地悪くて堪らない。けれど彼は夫の幼馴染だし、息子も日毎に彼に懐いていくばかり。息子が楽しそうにしているのを見ると、面と向って嫌とも言えないでいる。

 でも彼のそんな視線そのものよりも、夫が毎回そういう男ばかりを連れて来る、そのこと自体が彼女には我慢ならなかった。料理人は自分で選ばせて欲しい、そう何度頼んでも夫は首を縦に振ってはくれない。口の肥えた夫には私の選ぶ人間など当てにならないらしい。
 じゃあ何とか時間をやり繰りして自分で作るわ―― 一度彼にそう言ってみたことがある。
 自分の妻にそんなことはさせたくない――夫はそう言って譲らない。君に料理は無理だと、そうはっきりと言ってくれたほうが余程ましだった。
 あのショーンという男さえ辞めてくれれば、今より少しは心が平穏でいられるかもしれない。
 そう思って打診してみたけれど、夫は話すらろくに聞いてくれなかった。それならば、女性の料理人にしてもらうのはどうだろう?そうだ、それがいいわ、今度はそう提案してみよう。
 とりあえず週末にはショーンに会わずに済むけれど……そこまで考えて彼女は明日土曜の夜のパーティーの予定を思い出し、着ていくドレスやアクセサリーについて考えを巡らせることで、とりあえず眠りに就くまでの時間、鬱々とした気分を紛らわせた。つまり彼女はその夜、いつものようにこっそりとキッチンに忍び込み、夫に隠れてナイト・キャップをあおることなく眠りに就くことが出来たのだった。








 翌朝目覚めると、いつものように既に夫は起き出していた。アパートメントの地下にある住人専用のプールで泳ぎ、トレーニング・ルームで軽く汗を流すのが彼の毎朝の日課だったからだ。
 そんな健康的な日常を送る夫と違い、毎晩こっそりとあおる酒のせいで毎朝のように寝起きのすっきりとしない彼女だったが、その日は珍しくすっきりとした目覚めだった。 何だか頭が軽い気がする。昨夜はぐっすりと眠れたということかしら? ――そんなふうに思いながら彼女はベッドを抜け出した。
 食卓には彼女の大好きな花々と共に、色とりどりのフルーツやサラダが並べられている。
 そこにキッチンから漂ってくる、パンケーキを焼く甘い匂い。
 いつものように新聞を読みながら息子の話に耳を傾ける父、 息子の食の細さを気にしてあれこれと口喧しく忙しない母、パンケーキにかけた大好きなメープルシロップで口の周りをべたべたにしながら嬉々としてはしゃぐ息子。
 いつも通りの幸せな朝のひと時。一日の中で家族3人が揃って顔を会わせることの出来る、とても大切な時間だった。パーフェクトな朝だわ――彼女はそう思った。少なくともその瞬間だけはそう思えたから。


「ナディア、もういらないから下げて」
「レイ? ダメよ、ちゃんとトマトも食べなさい。それになあに? そのサラダの食べ方! どうしてレタスの芯だけ残すの?」
「だってにがくておいしくないんだもん。トマトもやっぱりいや!」
「レイ? この間ママとお約束したでしょう? せめて朝だけでもちゃんと残さずに頑張って食べるって」
「だって……」
「じゃあ苦いお薬を増やしてもいいのね? ママ、ジョーンズ先生にお願いしてお薬をいーっぱい増やして貰うわね」
「いやだよ、ママ! おくすりはもっときらい!」
「じゃあママとお約束したように――」
「――もういいじゃないか。そんなに沢山食べられるようになったなんて偉いぞ、レイ」
「フィル!」
「ほんとう? ダディ!」
「ナディア」

 フィリップは非難するような妻の視線を無視して家政婦(メイド)を呼び、息子を食後の歯磨きへと連れて行かせた。

「……あなたっていつもそう。あの子に甘すぎる」
「たかだかトマト1、2個のことで朝から大騒ぎする君が神経質過ぎるんだ」
「! ……随分ね。好き嫌いなく何でも食べて元気な子に育って欲しいって、そう願うことが神経質なの?ジョーンズ先生だって――」
「―― 実際少しずつでもレイの食事の量は増えてるじゃないか。それに成長していくうちに好き嫌いなんて無くなるものだ。焦るなよ」
「……成長?」
「……」
「……そうよね……トマト1個食べようが残そうが、確かに何も変わらない。夜も朝もいつだってあなたは私の言葉を最後まで聞いてもくれないけど、きっとこの先もそれは変わらない。同じことよね。よく解ったわ」
「……」

 気まずい沈黙がダイニングルームの温度をどんどん下げていく。うんざりした顔で手にしていた新聞を置き、フィリップは席を立った。 テーブルに一人残された彼女は、祈りを捧げる時のように組んだ手を額にぶつけるようにしながら唇を噛み、瞳を閉じて大きな溜め息を吐いた。

「奥様?」

 気遣うような声にはっとして顔を上げると、もう一人の家政婦であるメアリーの心配そうな顔がそこにあった。

「ご気分でも悪いのでは?」
「ああ、いえ、大丈夫よ。何でもないわ。ごめんなさいメアリー、もう全部下げてもらえる?」
「畏まりました、奥様」

 メアリーがテーブルを片付け始めた時、テラスの方から鳥のさえずりが聞こえてきた。席を立ち、テラスへ出るための大きな扉を開くと、 冷たい風が彼女の金色の髪を巻き上げ、熱くなっていた頬の温度を下げていく。
 薄手のシルク製のガウン一枚を羽織っただけの彼女は両腕を摩りながら足を進め、木々や色とりどりの花達の様子を確かめながらテラス内を散策していた。

「奥様!」

 声に振り返るとナディアが血相を変えてひざ掛けを片手に此方へ向ってくるところだった。

「またそんな薄着で! 風邪をひいてしまいますよ!」
「ありがとう。でも心配いらないわよ、ナディア。ほら、今日はとってもいいお天気だもの」
「いいえ、まだまだ春は先、風は冷たいですよ! 奥様が風邪をひいて旦那様や坊ちゃまに感染(うつ)りでもしたらどうします!」
「……そうね……気をつけるわ」
「さあ、奥様。温かい紅茶をお持ちしますね」

 ナディアに背を押されるようにしながら彼女は家の中に戻った。
 私にはもう、風邪をひく権利さえもないのね。
 ナディアの淹れてくれたアール・グレイを飲みながら、彼女は自嘲するように薄い笑みを浮かべた。
 ふと、夫がテーブルに残していった新聞が目に留まり、彼女はそれを手にとった。父もこうして毎朝の食事時に新聞を読んでいたけれど、男は同時に二つのことを進められないのに、どうして皆朝食をとりながら新聞を読むのだろう。
 それとも男というのは朝食をとりながら新聞を読むものだと刷り込まれているのだろうか。新聞も読まずに朝食をとるなんて男としての沽券に係る、とでも言いたげに見えて、少し滑稽に映る。

 " 自分自身に正直であることはなんと困難なことだろう。他人に正直である方がはるかにやさしい。 "

 一面を暫く読み進めていると、紙面の端っこのほうに書かれた一文が目に飛び込み、虚を突かれたように彼女は瞳を見開いた。まるで見知らぬ誰かに心を見透かされ、それを言い当てられたみたいに胸の中がざわざわと音を立てて揺れている。どうしてそんなふうに感じるのかは解らない。ただ何となく居心地が悪くなり、彼女は自分も出かける仕度を始めることにして席を立った。

「ママ、ダディが出かけるよ!」

 そこに現れた息子に手を引かれながらエントランスに向うと、既に第2秘書のヴァレリーが、エレヴェイターを待ちながら夫とその日の予定について話しているところだった。 迎えの車の中で大人しくボスを待つという考えは、彼女・ヴァレリーにはないらしい。1分1秒でも無駄にしたくないのは解るけど、 家族の朝のひと時くらい遠慮してくれればいいのに、と苦々しく思いながらヴァレリーと軽く挨拶を交わす。

「キャス」
「?」
「今夜のパーティーだが、行けそうにない」
「! そんな!」
「どうやら予定が変わってしまいそうだ。連絡させるよ」
「ねえ、フィル――」

 温度の無い冷たいキスだけを唇に残し、振り返ることもなく夫はヴァレリーと共にエレヴェイターの中へと姿を消した。

「ママ、ダディの代わりに僕がパーティーにつれて行ってあげるよ!」
「……ありがとう、レイ」
「ほんとうだよ? 僕だってママをエスコートできるんだ。なんたって僕のタックス*はダディとおそろいなんだからね!」

 息子の言葉にふっと心が軽くなり、ようやく彼女の顔に笑みが浮かんだ。本当にこの子は優しい子だ。母親の憂いを直ぐに察知していつも優しい言葉をくれる。彼女は朝食の席で薬を増やすだなんて脅しみたいに言ってしまったことを少しばかり後悔した。
 確かに夫の言う通りだ。たとえ少しずつであっても、ちゃんと食べてくれるようになったではないか。夫のようにまずはそれを褒めてあげるべきだった。

「レイ」
「なあに?」
「昨日も言ったけど、ママ、今日はお仕事をしてそのままパーティーに行くの。だから一日独りぼっちで寂しい思いをさせてしまうけど、ごめんね」
「ううん、だいじょうぶだよママ。僕、いい子にしてるよ」
「本当?」
「だってミスター・アンダーソンもいっしょだし、お昼からミス・ベネットも来てくれるんでしょ? だからさびしくないよ」
「ママは寂しいわ。だからママをハグしてくれる?」
「Sure ! 」

 I love you, mom ! ――そう言ってぎゅうっと抱き締めてくれる息子の声が胸に沁みる。いけない。泣いてしまいそう。私ったらすっかり弱気になってしまってる。
 彼女は少し濡れてしまった睫毛をこっそりと指で拭い、最愛の息子の背をぎゅうっと抱き締め返した。











 数時間後、逃げ込んだパウダールームでそこに置かれたソファーに座り、キャサリンは束の間の休息にホッと一息吐いていた。
 パーティーは特に何事の問題もなく、 やがて終わりを迎えようかという頃だった。暫くそこに座ったまま、顧客との会話の合間に閃いたアイデアを忘れないよう、もう一度思い返すことを繰り返し、いけない、そろそろ会場に戻らなきゃ、と脱いでいたマノロ*のハイヒールに再び足を入れて立ち上がった。
 そしてそのまま廊下を過ぎてバンケット・ルームの入り口に差し掛かった時、彼女は中から勢い良く出てきた男と軽くぶつかってしまった。

「Oh ! 」
「Oh , excuse me ! ――キャス?」
「ジェイク!」
「Hi ! 」

 彼女はそのジェイクという男と笑いながら抱き合った。彼は彼女の友人で、今夜のパーティーに招待していたのだが、そう言えば姿を見かけなかった。

「君の姿が見つからないから帰ろうかと思ってたところだよ」
「ごめんなさい、ちょうど席を外していたの。来てくれたのね?」
「僕こそ遅くなってしまって。Oh , ブランドの3周年おめでとう、キャス。アシスタントに贈り物を預けてあるよ」
「本当? そんな気を遣わないで、ジェイク。でも嬉しいわ、ありがとう」
「大したものじゃないよ」
「そうだ! ちょうどよかったわ。あなたに連絡したかったの」
「んー、それってビジネス?」
「ええ、勿論」
「何だ、残念だな。デートのお誘いかと思ったのに」
「ふふっ、じゃあランチデートでもどう?」
「ビジネス抜きで?」
「いいわよ。仕事が欲しくないんならね」
「Ok , 解ったよ。僕の本音は残念だと言ってるけど」
「もう、相変わらず上手いんだから」
「Oh ! I gotta go ! (行かなきゃ!) 実は人を待たせてるんだ」
「大変! じゃあもう行って。来週にでも電話するわ」
「ああ、待ってるよ」

 頬に挨拶のキスを交わし、ジェイクは彼女に手を振って出口へと向った。
 手を振り返してそれを見送り、彼女は会場に戻ろうかと歩き始めた。
 ふっと誰かの視線を感じて目を向けると、近くの壁にもたれてじっとこちらを見ている男が居た。

 ――フィル!

 来られないと言っていた筈のフィリップがそこに立っていた。

「やっぱり行けない、ってヴァレリーから電話があったわ」
「また予定が変わってね」
「……ありがとう、フィル」

 返事の代わりに撫で回すような視線が彼女の全身を巡る。何か言おうと彼女が口を開いたと同時にすっと視線を外すと、彼はそのまま会場へと消えた。










 帰宅して真っ先に子供部屋を覗くと、レイはお気に入りのパジャマ姿でぐっすりと眠っていた。
 今日一日、この子はどんなふうに過ごして、どんなことを思ったのだろう。本当に寂しくはなかったのだろうか。
 明日は一日この子に寄り添って、うんとたくさん話を聞いてあげよう――頬にかかった髪の毛と上掛けを直し、息子の額にそっと静かにキスをして彼女は子供部屋を後にした。

 夫婦の寝室に戻ると、ジャケットを脱いだフィリップが、シャツのボタンを外した姿でベッドの縁に腰掛けていた。
 ピアスを外しながら夫の目の前を素通りし、寝室から続く広いクローゼットへと行く。
 彼女はそこで大きな鏡に映る自分の姿を改めてじっと見つめた。そこには古いVogue誌から抜け出たような見知らぬ自分が居て、もうこの姿に別れを告げなければならないのかと思うと少し寂しい気持ちになる。
 偶然のミシェルとの出会いで起きたケミストリー*。誰も彼もが口々に今夜の私を褒めてくれた。たった一人、夫を除いた誰もが。
 帰りの車の中でも彼は何も言ってくれなかった。疲れた、と呟いて瞳を閉じていただけだ。
 でも彼女には判っている。夫の瞳が全てを物語っていたから。彼があんな眼で私を見つめてくれたなんて何年振りだろう。それだけで彼女は満たされた思いでいっぱいになり、ミシェルとの出会いを神に感謝したいとさえ思った。
 彼に何かお礼をしたほうがいいわね――そんなことを考えながら、ドレッサーの上に外したパールのネックレスを置いた。
 ふっと鏡越しに夫の姿に気付く。彼女が振り返るよりも先に生温かい唇が後ろから肩口を這った。

「フィル……」

 フィリップは何も言わず、肩に唇を這わせながら背中のジッパーを半分ほど下ろし、そこに手を差し入れると、後ろから手を廻して彼女の胸を直に愛撫し始めた。 熱い溜め息を吐き、振り返り、彼女は夫の唇を求める。はあはあと熱い息を漏らして唇を重ね合いながら、フィリップは彼女のドレスの裾を捲り上げ、壁に彼女を押し付けた。

「あ!」

 夫が中に入ってきた瞬間、彼女は仰け反り、白い喉を晒して声を上げた。彼の荒い息遣いが耳元に注がれ、彼女の身体はそれだけで熱く反応してしまう。 こんなに一瞬で身体に火が点いてしまうなんて。こんなふうに荒々しい夫は久しかった。まるで知らない誰かに抱かれているみたいだ。その思いつきに彼女はかつてないほどに欲情した。
 本当にフィル、あなたなの?――いいえ、きっと私は今、違う男に抱かれている。
 スティーブ? ニコラ? ……ショーン?
 やがて夫が獣のような声を上げ、同時に彼女にもその瞬間が訪れた。
 身体の芯から電流が走り抜け、繋がった部分が溶けそうなほど熱くなっている。彼女の思考はそこで飛んだ。

「――me」
「Wha ?」
「Fuck me ……more」

 彼女は夫の頬を手のひらで包んで自分から激しく唇を求め始めた。それに応えるように、繋がったままの姿で彼はベッドの方へと彼女を運ぶ。彼が直ぐに熱を取り戻したのを繋がったままの部分で感じる。彼も激しく欲情しているのだ。見知らぬ私に。
「You're bitch!」――その証拠に、普段決して彼女に向けることのない言葉を吐く夫。
 彼女の顔に勝ち誇ったような恍惚に満ちた笑みが浮かんだ。

「I ――」
「――Ahh ! 」

 次の瞬間、再び上り詰めた彼女の大きな声が寝室の空気を震わせていた。