「 Magnet 」 試し読みページ




お試し用にチャプター1の各話から少しずつ抜粋してあります。
シリアスあり、コメディあり、友情、人情、家族愛、エロス…
そんな、誰にでもある日常を綴ったストーリーです。
「ラブストーリー」とひと言で言い表せないかも、ですが、よろしければご試食をどうぞ。








■ 第一話 「Lamka」より

「――どうしたの?」
「――?」

突然の子供の声に彼女は現実に引き戻された。
顔を上げると、目の前に心配そうな顔をした5歳くらいの小さい男の子がサッカーボールを胸に抱いて立っている。
「あたまがいたいの?」
「あ・・・」
「それともおなかがいたいの?」
「・・・いいえ、そうじゃないの」
「でも、泣いているよ?」
「あ・・・」

慌てて濡れた頬を拭うと、少年は自分の胸に手を当てて、心配そうに彼女の顔を再び覗き込んだ。
「ここがいたかったんだね?」
「・・・心配してくれてありがとう。 えっと――」
「――レイモンドだよ。ママは僕をレイって呼ぶんだ。だからさっき、ママが僕をよんだのかとおもっちゃった」
「・・・!?」

レイ――彼女は確かにその名を呼んだ。しかし決して声に出して呼んだのでは無い。心の中で叫んだのだ。
「助けて、レイ!」と―――

「聞こえたの!? レイって!?」
さらさらのダークブラウンの髪を揺らし、少年がこくん、と頷く。
「ママはおしごとだからここにいるはずがないんだ。だから変だな、っておもったんだけど・・・・きみだったんだね」
「ね、本当にレイって、そう聞こえたの?」
「うん。 どうやらやっと・・・ " そのとき " がきたみたいだね、シェリー」
「―――!?」
驚きの余り言葉を失い唖然とする彼女に向かい、少年はにっこり微笑んで片手を差し出した。
「はじめまして、シェリー。 やっときみに会えた」










■ 第二話 「Sean」より

今日此処に、本当に "ミス・シェリー " が現れた。彼女が本当に " シェリー " なのかどうか確認こそしなかったが、彼女のあの驚きようから言って間違いはないだろう。
想像していた女とはまるで違っていた。いや、本当に出会うと信じていた訳ではないのだが、" シェリー " と聞いて真っ先に浮かんだのは、さっきのクラブにひしめいていたような、彼が良く知る類の女だったのだ。
いや、そういう類の女としかここのところ関わっていないから、それ以外の種類の女が生息していたことをどうやら忘れていたらしい。



さっきのボンベイ・サファイアが今頃になって効いてきたのだろうか。急に視界がぐらぐらと回り始めた。
どういうわけか、目の前に居た筈の女は消え失せ、そこには昼間の彼女が立っている。
いつここにミス・シェリーが? ・・・ああ、俺は一体何を?
「――でも土曜日だし、まさかこんなに直ぐ来るとは思わなかったわ・・・・・そうだ、お腹空いてる?」
振り返ろうとした女を後ろから抱き締め、男は白い首筋に唇を這わせ始めた。
「・・・ああ、飢えてる・・・」
「もう・・・相変わらずせっかちね」
女の手からグラスを奪い、ひと口その赤い酒を含んだ男が、口移しにそれを女の唇へ注ぎ入れる。
「んん・・・ふふ・・・」
芳醇な味のキスを交わしながら、グラスの中の液体と同じ色に塗られた指先が、男のシャツのボタンを慣れた手つきで外していった。










■ 第三話 「Betty」より

「おいで、ベティ」
「う・・・」
泣き出したベティの肩をミシェルが優しく抱き寄せる。
「ハニー、知っての通り、僕もキースに新しい男が出来たと知った時はそりゃあ絶望したよ。・・・まだ彼を愛してるし、今でも辛いけど・・・でも、彼を憎んでやしないよ。とっても感謝してる。彼と過ごした日々は・・・本当に素晴らしかったから」
「・・・・あんたはキースの浮気現場を見たわけじゃないでしょ」
今の彼女には何の慰めにもならない、というふうにラムカが溜息を吐いた。
「・・・ミシェル・・・」
「うん?」
「いつも意地悪言ってごめん」
「ベティ?」
「あんたが男ならよかったのに」
「男だよ?」
「男?男だったの!?初耳だわ」
「・・・生物学上ね」
ああ、まただ・・・・
ラムカはうんざりした顔でベティが飲んでいたグラスの酒を一気にあおった。











■ 第四話 「Paul」より

まるで想像した通りの幽霊みたいな、青白く虚ろな表情でとぼとぼと歩くその老女に思わず目が釘付けになった。
「ミセス・バレット!?」
「・・・・・」
気付かずに相変わらずとぼとぼと歩き続ける老女を追いかけ、その肩を掴む。
「ミセス・バレット!」
「はあ? おや、" ジョン "じゃないか。もう学校に行く時間かい?気を付けて行っておいで」
「Oh ! No、no、no! "マム "、何処へ行くの?家はこっちだよ。帰ろう、さあ」
「・・・家?」
怪訝な顔をして辺りをきょろきょろと見回して混乱したように頭に手を当てるミセス・バレットの肩を優しく抱き寄せて手を取り、ポールはアパートメントの方へとミセス・バレットを誘(いざな)うようにゆっくりと歩き出した。
「Oh my goodness!こんなに冷え切って・・・風邪をひくよ?そうだ、温かいスープを作ってあげるよ。足元に気をつけて。そう、ゆっくり、ゆっくり・・・」


朝から 『 徘徊 』 中のミセス・バレットを彼女の部屋まで送り、急いで自室の戸棚から取ってきたインスタントのポタージュを作ってミセス・バレットに飲ませ、学校に行くね、と言って彼女に別れを告げた。
道路から見上げると、2階の窓からミセス・バレットが手を振っている。彼はいつものように、そして当たり前のように「バイ、マム」と手を振り返して愛車であるヴェスパのエンジンをかけた。










■ 第五話 「Michel」より

「――ともかくママン、お願いだから朝から電話してきてジョルジュの話をするのは止めて。気がおかしくなりそうだよ」

電話が鳴る度に、キースからの電話でありますように!―― そう願いながら受話器を取り上げ、そして瞬時に失望することを一体何度繰り返してきただろう。
大概、相手は母親のアンヌか妹のソフィーか、或いはベティかラムカか―――つまり、そのほとんどが "女たち " だった。 たまに聞く低い声の持ち主と言えば、数少ない男友達の一人であるラッセルか、誰がこの番号を教えるのかは知らないが、胡散臭い男からの誘いの電話か、しつこいモデル依頼の電話か―――つまり、ラッセル以外、ろくでもない電話ばかりだ。
僕は彼女達にとって一体何なんだろう?他の女友達と僕とは一体何が違うと言うんだろう?
何故みんなが自分に話を聞いてもらいたがるのかがさっぱり解らない。
あんたには才能があるの。人を慰めて癒してくれる才能が――― 母親の言葉が蘇り、彼に溜め息をつかせる。
ママン、本当にそんな才能が僕にあると言うのなら、どうして自分の傷は癒せないの?
僕自身はまだこんなにもボロボロのままなのに。











■ 第六話 「Catherine」より

彼女が振り返るよりも先に生温かい唇が後ろから肩口を這った。
「・・・フィル・・・」
フィリップは何も言わず、肩に唇を這わせながら背中のジッパーを半分ほど下ろし、そこに手を差し入れると後ろから手を廻して彼女の胸を直に愛撫し始めた。
熱い溜め息を吐き、振り返り、彼女は夫の唇を求める。
はあはあと熱い息を漏らして唇を重ね合いながら、フィリップは彼女のドレスの裾を捲り上げ、壁に彼女を押し付けた。
「あ・・・!」
夫が中に入ってきた瞬間、彼女は仰け反り、白い喉を晒して声を上げた。
彼の荒い息遣いが耳元に注がれ、彼女の身体はそれだけで熱く反応してしまう。
こんなに一瞬で身体に火が点いてしまうなんて。こんなふうに荒々しい夫は久しかった。まるで知らない誰かに抱かれているみたいだ。
その思いつきに彼女はかつてないほどに欲情した。











■ 第七話 「Phillip」より

キスの途中でこの髪を掻き乱す彼女の指の感触に堪らなく欲情する。たったそれだけのことでもう、自分が自分でいられない。一刻も早く彼女の中に入りたくて気が狂いそうだ。だからそうする。
下着を剥ぎ取り、壁に押し付けるように彼女を抱え上げ、爆発してしまいそうな情熱を押し込んで彼女を思い切り犯す。ある時は床の上で。ある時はテーブルの上で。ベッドまで待てないからいつもそうなる。
だから毎回彼女は罵る言葉を吐き、絶頂を迎える。恍惚とした表情を浮かべて。







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